ミナリ

3月19日(金)公開 TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー

韓国人一家のアメリカン・ドリームの行方

 農場経営のためアーカンソー州の田舎町に引っ越して来た、韓国人移民のジェイコブ・イと家族たち。トレーラーハウスでの暮らしに子供たちは大はしゃぎだが、妻のモニカは最初からこの計画に乗り気ではない。ヒヨコの雌雄鑑定をしながら必死に蓄えた金を、ジェイコブは投資と称して農場に注ぎ込んでいく。農作物の出荷が始まるまで、一家の現金収入は近くの養鶏場で行うヒヨコの鑑定だけだ。鑑定士としてのジェイコブの能力は高く、それだけでも一家が生活していくのに不自由はない。だが彼にはそれより大きな夢があるのだ。夫が農場の仕事をする間は、モニカの仕事が一家を支えている。子供たちの世話のため、彼女は母を韓国から呼び寄せて一緒に生活することにした。だがジェイコブがいくら力を入れても、農場の仕事はなかなか軌道に乗らない。自力で掘った井戸は収穫前に水が涸れ、コストのかかる水道水を畑にまくことになる。一家の財政状態は綱渡りだった。

 多くの映画祭で高い評価を受け、アカデミー賞でも6部門にノミネートされている作品。アメリカ国内のエスニック家族を描いたホームドラマを、エスニック家族の視点から描いているが、これは紛れもないアメリカ映画。多くの移民で構成されているアメリカ社会で、「アメリカン・ドリーム」を実現しようともがく新興移民の姿には、韓国系アメリカ人であるリー・アイザック・チョン監督の体験が反映しているようだ。チョン監督も子供時代を、アーカンソー州リンカーンの小さな農場で過ごしているという。現在のアメリカでは人種や性別、所得格差といった属性による対立が深刻化しているように見えるのだが、本作はそれをあえて描こうとしない。1980年代のアメリカの田舎町で、韓国人移民が好奇の目で見られたり、差別されたりする経験がゼロだったとは思えない。だが本作は「家族と外部の対立」を排除することで、「家族内の対立」をより鮮明に浮き彫りにする。

 この映画の肝は、韓国からやって来たモニカの母スンジャの登場にある。ジェイコブ、モニカ、デビッド、アンなど、英語の名前を名乗り、英語を喋ってアメリカ社会に溶け込もうとする一家に中に、韓国を丸ごと引きずったままのスンジャが侵入してくることで、この家族が紛れもなく韓国系であることが観客に常に意識されるようになる。スンジャが家族や地域に馴染んできたところで病気になってしまう展開も、彼女が周囲の人たちにとって「異物」であり続ける効果を生み出した。タイトルの『ミナリ』は、彼女が韓国から持って来て水辺に植えたセリのこと。セリが新しい土地に移入されて芽吹き、しっかりと根を下ろしていく様子を、移民一家がアメリカ社会に根を下ろしていく様子になぞらえているのだ。セリはアメリカ人には馴染みのない野菜で、タイトルの『Minari』も意味は通じない。これは韓国からの外来種が、アメリカに根付くことを象徴した題名なのだ。

(原題:Minari)

TOHOシネマズシャンテ(スクリーン3)にて 
配給:ギャガ 
2020年|1時間56分|アメリカ|カラー|シネスコ|5.1ch 
公式HP: https://gaga.ne.jp/minari/ 
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt10633456/

MINARI (輸入盤)

MINARI (輸入盤)

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