ノマドランド

3月26日(金)公開 TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

アメリカ各地を漂流する労働者たち

 2011年。ネバダ州エンパイアのセメント工場が閉鎖され、企業城下町として栄えた町は廃墟になった。住民だったファーンは家を失った後、生活に必要な道具をバンに詰め込んで町を出る。全米を移動しながら路上で車中泊し、必要な現金はあちこちで短期の軽作業などをして稼ぐのだ。ノマド(遊牧民、放浪者)と呼ばれることもあるが、その実態は生活基盤を持たないホームレスだ。ファーンのようなノマドはアメリカ中に大勢いて、彼らを季節労働者としてあてにしている企業も多いし、ノマド同士のコミュニティも成立している。ファーンはそうした中で、多くの仲間たちに出会う。病気を抱えながら旅を続けるスワンキー。自由気ままな放浪者を気取りながら、あれこれファーンに助言してくれるデヴィッド。ノマドたちの指導者ボブ・ウェルス。ある日デヴィッドのもとに、彼の息子だという男が訪ねて来る。間もなく孫が生まれるので、一度帰宅してほしいというのだ。

 原作はジェシカ・ブルーダーの同名ノンフィクション。(日本では「ノマド:漂流する高齢労働者たち」という題名で春秋社から発売。)本を読んだフランシス・マクドーマンドが映画化権を獲得し、中国人の女性監督クロエ・ジャオが脚色と監督を兼務。製作のマクドーマンドの他、デヴィッド・ストラザーンだけがプロの俳優として参加し、あとはほとんどが実際のノマドたちだという。映画を観ればわかることだが、ここに登場する「ノマド」は、日本で一時話題になった「ノマドワーカー」とは全く別種の存在だ。ノマドワーカーはパソコンとインターネットを使った新しい働き方というポジティブなイメージが先行しているが、ノマドは原作の日本語版にある「漂流する高齢労働者たち」がより正確だろう。日本も工事現場で交通整理をする警備員はほとんどが高齢者ばかりだが、年金で十分生活できない高齢者は、年を取っても働き続けなければならない。どこも同じなのだ。

 ノマドの実態は短期雇用で最低限の生活を強いられている高齢労働者だが、映画がそれほど暗くなっていないのは理由がある。ひとつはファーンをはじめとするノマドたちが、独立心旺盛な誇り高い人々として描かれていること。彼らは他人の世話になることを嫌う。まずは自助で、次が共助。公助はまったくあてにしない。他人の世話になって自由を失いぐらいなら、のたれ死んだ方がましという潔さ。これはアメリカ建国以来の伝統的アメリカ人気質に、じつはぴったり沿った生き方なのだと思う。苦しい生活の中でも失われない主人公の誇り高さが、この映画をじめじめした泣き言から救っている。もうひとつは、映像の美しさだ。アメリカ各地の美しい自然が見事に切り取られているが、この映画の中ではAmazonの倉庫ですらダイナミックに、それでいて品良く撮影されている。物語らしい物語がさほどない映画だが、これは映像詩として見事な出来映えに仕上がっている。

(原題:Nomadland)

TOHOシネマズ日本橋(スクリーン4)にて 
配給:ディズニー 
2020年|1時間48分|アメリカ|カラー|2.39 : 1 
公式HP: https://searchlightpictures.jp/movie/nomadland.html 
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt9770150/

ノマド: 漂流する高齢労働者たち

ノマド: 漂流する高齢労働者たち

posted with AmaQuick at 2021.04.21
ジェシカ・ブルーダー(著), 鈴木 素子(翻訳)
春秋社 (2018-10-22T00:00:01Z)
5つ星のうち4.0
¥3,721 (中古品)Amazon.co.jpで詳細を見る

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