BLUE/ブルー

4月9日(金)公開 全国ロードショー

ボクシングに片思いする男たちの物語

 バイト先のパチンコ屋で喫煙を注意した中学生に殴られた楢崎は、バイト仲間の女の子の前で見栄を張り、とっさに「事情があって俺からは手出しできないんだ」と嘘をつく。「楢崎さん、ボクシングやってるとか?」。こうして楢崎は、見栄っ張りついでにボクシングジムに通うことになる。そこで彼に付きっきりで基礎から指導をしてくれたのが、ジム所属のプロボクサー瓜田だった。誰よりもボクシングを愛し、誰よりも指導熱心な瓜田だが、プロのリングでは負け続けている。それどころかジムに通う練習生とスパーリングをしても圧倒されてしまうほど弱いのだ。誰よりも熱心に練習しても、それが結果に結びつかない。だが瓜田はいつもニコニコと、ひたむきにボクシングと向かい合っている。そんな彼と対照的なのが、瓜田の後輩でタイトル戦目前の小川。だが彼は最近になって、頭痛や物忘れなどの体調不良に悩まされていた。恋人の千佳は心配して瓜田に相談する……。

 不思議な構成の映画だと思う。映画前半の主人公は松山ケンイチ扮する瓜田というボクサーなのだが、彼が映画の後半で突然離脱してしまうのだ。主人公だったはずの人物がぽっかりと抜けたまま、物語は何事もなかったかのように淡々と進んで行く。だが映画を最後まで観ると、これが「ボクシングから落後していく者たちの物語」であることがわかる。それは映画の前半から明らかになっていた。やる気とセンスがあったにも関わらず、練習中の事故でボクシングを諦めざるを得なかった青年。その夢を託された男が、簡単に勝ち上がれるほどボクシングは甘くない。多くの人間がボクシングに触れるが、プロになり、勝ち残り、ランカーやタイトル保持者になるのはごくわずか。そしてその地位も、何かあれば簡単に転げ落ちてしまう。どれだけボクシングというスポーツを愛しても、ボクシングの側がその愛に応えてくれるとは限らない。むしろ応えてくれないことがほとんどだ。

 これはボクシングに「報われぬ愛」を捧げた男たちの物語だ。映画としては、人間ドラマにもう少し粘っこさがあってもいいような気がする。しかしそうならないのは、登場する男たちの愛の対象がボクシングだからだ。瓜田の初恋についてのエピソード、小川と千佳の関係、楢崎の成長など、映画の中に挿入されているさまざまなドラマは、男たちの「ボクシングに対する愛」の前には小さな存在になってしまう。それを象徴するのが、瓜田のボクシングに対するひたむきな姿。彼はボクシングに愛されなかった。ボクシングは彼に振り向くどころか、視線を合わせることすらしてくれなかった。だが瓜田はボクシングを愛し続ける。ボクシングと出会ったきっかけはある。だがそれは、彼がボクシングを愛し続ける理由にはならない。彼はこの映画が終わったあとも、ずっとボクシングを愛し続けるだろう。それが永遠の片想いであったとしてもだ。小川や楢崎もたぶん同じだと思う。

109シネマズ川崎(シアター8)にて 
配給:ファントム・フィルム 
2021年|1時間47分|日本|カラー 
公式HP: https://phantom-film.com/blue/ 
IMDb: https://www.imdb.com/

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