愛について語るときにイケダの語ること

6月25日(金)公開予定 アップリンク吉祥寺

死を前にして表現したかったものとは

 池田英彦は生まれつき四肢軟骨無形成症という難病を患っている。軟骨細胞の異常で手足が短いまま成長せず、「こびと症」と呼ばれることもある病気だ。この病気は生活が不便なこと以外にこれといって問題はないのだが、彼は医者からそれとは別の病気について診断結果を告げられた。難治性のスキルス性胃がんで、既にステージ4になっているという。死を意識した池田は友人の脚本家・真野勝成に声をかけ、自分自身についての映画を作るよう持ちかける。素材は真野が撮影する池田のインタビュー、池田が自分で撮影するセルフ動画、池田が自ら撮影した風俗店での「はめ撮り動画」、そしてフィクションとして撮影される「理想のデート」のドラマだった。ドラマパートの撮影は順調に進み、はめ撮り素材も着々と集まっている。だがその間にも、池田の病状はどんどん悪化して行く。一度は手術で胃を切除することが決まったが、もはやそれさえできない状態になっていた。

 先日のアカデミー賞授賞式では、『マ・レイニーのブラックボトム』に出演したチャドウィック・ボーズマンが主演男優賞の大本命と目されていた。ボーズマンは4年に渡る闘病生活の末、昨年8月に亡くなっている。映画での好演もさることながら、才能ある俳優の若すぎる死に対する同情票が集まるかもしれない。(同情票が受賞を左右するのはアカデミー賞によくあることだ。)アカデミー賞前哨戦と言われるゴールデングローブ賞では、彼が主演男優賞を受賞している。この流れなら、アカデミー賞も間違いないだろうというのが、業界関係者や映画ファンの見立てだった……。結果は主演男優賞を大ベテランのアンソニー・ホプキンスが受賞する大番狂わせが起きたのだが、映画完成前の主演俳優の死ということなら、本作『愛について語るときにイケダの語ること』も負けず劣らずのものだと思う。むしろこの映画の方が壮絶で、鬼気迫るものになっているのではなかろうか。

 この映画のテーマは「死」だ。映画の撮影が始まった時点で、それは大前提になっている。映画に出てくるさまざまなエピソードは、すべてが「死」に紐付いたものになる。はめ撮りセックスも、カメラの前での恋愛ごっこも、すべて「死」との対比の中で描かれる。「生と死」や「性と死」というのは、映画の中でもしばしば取り上げられる対比だ。月並みだとか手垢が付いているとは言わないが、よくあるパターンであることは事実だろう。だがこの映画がユニークなのは、そこに「疑似恋愛」という虚構を挟み込んでいること。この疑似恋愛のパートで、主人公は恋愛映画の主人公であることを止めて素に戻ってしまう。それは現実がフィクションを飲み込んだのか、フィクションが現実を飲み込んだのか……。1時間にも満たない短編ドキュメンタリー映画だが、ここにあるのは一人の男が死の直前まで何かを表現しようとする姿。その何かとは、やはり「愛」だったのだと思う。

TCC試写室にて 
配給:ブライトホース・フィルム 
2021年|58分|日本|カラー|DCP|16:9 
公式HP: https://www.ikedakataru.movie/ 
IMDb: https://www.imdb.com/

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