茜色に焼かれる

5月21日(金)公開予定 TOHOシネマズ日比谷ほかロードショー

つまらない男社会へのささやかな反逆

 良子の夫は交通事故で死んだ。自転車で横断歩道を渡っているとき、突っ込んできた車にはねられたのだ。加害者は85歳の元官僚だが、認知症を理由に逮捕すらされなかった。それから7年後。天寿を全うした加害者の葬儀に、喪服姿の良子が現れる。「加害者の顔をもう一度見たかった」と言う良子に、遺族は「悪質な嫌がらせだ」と罵声を浴びせて葬儀場からつまみ出す。13歳の息子・純平には、そんな母の行動がちょっと理解できない。夫を亡くした後もカフェを経営して純平を育ててきた良子だが、コロナ禍で店は閉店。今はスーパーの生花コーナーでアルバイトをしている。だがこれだけでは生活することができない。良子は純平に内緒で、ピンサロの風俗嬢としても働いていた。それでも暮らしはぎりぎり。なにしろ良子は、夫の事故の賠償金は一切受け取らず、夫が愛人に生ませた子供の養育費をいまだに払っているのだ。ある日良子は、中学時代の同級生と再会する。

 コロナ禍の日本の今を切り取ったドラマ作品。主演は尾野真千子。監督・脚本は『舟を編む』(2013)の石井裕也。2時間半近い映画だが、物語がなかなか動き始めないのは正直つらい。現在の日本で多くの人が感じているであろう「閉塞感」や「生きづらさ」が、映画の前半にぎっしりと詰め込まれているのだが、この前半部分で観ているこちらまで窒息しそうな気分になる。映画が動き始めるのは、ピンサロでの良子の同僚・ケイが関わりはじめてからだ。このケイがなかなか魅力的なキャラクターで、中学生の純平がぞっこんになってしまうのも納得できる。しかしその一方で、良子が心ときめかせる中学の同級生・熊木という男は、どこに魅力があるのかさっぱりわからないつまらない男なのだ。登場した時からつまらない男で、それは映画の最後まで変わらない。つまらない男に勝手に惚れてデレついたあげく、相手がつまらない男だとわかって騒ぐのはどうなんだろうか。

 しかしこの映画、登場する男たちは誰も彼もが「つまらない男」ばかりなのだ。じつはこの映画のテーマは、そこにあるのではないだろうか。例外は良子の息子・純平だが、彼はまだ子供だから員数外。もう一人の例外は永瀬正敏演じるピンサロの店長だが、この人は物語の中で「男」であることから降りてしまっているようにも見える。あとはみんな、例外なしにつまらない男だ。良子の夫をひき殺した上級国民も、一言の謝罪もないその遺族も、遺族の立場を代弁する弁護士も、ことごとくみんなつまらない。女の弱味に付け込んで言い寄ってくる男。女を使い捨てにして良心の痛みを感じない男。この世はかくもつまらない男たちがのさばり、つまらない男たちによって食い物にされた女が苦労するようにできている。良子はそんな世の中に対し、自分なりに筋の通った生き方を押し通すことで反逆しているのだ。しかしその戦いの、なんと無力なことだろうか。悲しくなってくる。

松竹試写室にて 
配給:フィルムランド、朝日新聞、スターサンズ 
2021年|2時間24分|日本|カラー|シネマスコープ|5.1ch 
公式HP: https://akaneiro-movie.com/ 
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt14316810/

映画演出・個人的研究課題

映画演出・個人的研究課題

posted with AmaQuick at 2021.04.28石井 裕也(著)
朝日新聞出版 (2020-09-18T00:00:01Z)
5つ星のうち4.5
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