ファーザー

5月14日(金)公開 TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

主人公の目の前で少しずつ世界が壊れていく

■あらすじ
 80歳を過ぎてもアパートで一人暮らしを続ける父アンソニーのもとに、娘のアンがやってくる。通いで身の回りの世話をしていた介護士が、アンソニーの暴言に耐えられないと娘にご注進したのだ。「また代わりの人を探さなきゃならない」と娘は嘆くが、自分は身の回りのことぐらい一人でできる。いつだってデキの悪い介護士を押し付けてくるのは、娘の方ではないか。介護士が時計を盗もうとしていた話だって、娘は本気では取り合ってくれない。そんな娘が突然「私もうじきパリに行くのよ」と言いだす。「なぜ?」。数年前に前夫と離婚したアンは、新しい恋人と出会って、今は自分の幸せをつかみ取ろうとしているのだ。アンの去ったアパートに、人の気配を感じたのはその直後だった。見ると居間で見知らぬ男が、悠然と新聞を読んでいる。「君は誰だね?」「アンの夫ですよ」。そんな馬鹿な。間もなくアンが帰宅したが、その顔を見てアンソニーはギョッとする……。

■感想・レビュー
 アンソニー・ホプキンスが今年のアカデミー主演男優賞を受賞した、ミステリアスでサスペンスたっぷりのドラマ作品。認知症をモチーフにした映画は少なくないが、この映画はそれを、認知症になった当事者の視点で描いているのがユニークだ。あらすじはわかりやすいようにアンソニーの視点でまとめたが、映画の導入部は娘アンの視点で語られている。そこで一度アンが退場して、アンソニーの視点に物語が切り替わる。この展開にまったく不自然さがないため、この後に起きるさまざまな出来事は、観客を大いに混乱させるに違いない。何しろすべてが混乱していくのだ。最初は娘の夫を名乗る見知らぬ男が、部屋の中に突然出現する。この展開はほとんどホラー映画だ。一番近いのはキューブリックの『シャイニング』(1980)ではないだろうか。あの映画では管理人家族以外は誰もいないはずのホテルに、いきなり見知らぬ男や女たちが現れる。あれとそっくり同じ事だ。

 ホプキンスのオスカー受賞は大番狂わせだと言われたが、僕はこの映画を観て受賞は文句なしだと思った。本命視されていたチャドウィック・ボーズマンが劣っているとも思わないが(別々の作品の別の役を比較してもしょうがない)、今回のアンソニー・ホプキンスの役は主演男優賞の名に恥じぬものだと思う。何しろ映画のほぼすべての場面に、彼は出ずっぱりなのだ。一人芝居ではないが、この映画はそれに近いと思う。視点は常に主人公のアンソニーにあり、それがずれた場面にも重要な意味がある。随所に仕組まれた物語のトリックに、主人公アンソニーだけでなく、観客もすっかり騙されてしまうはずだ。映画を最後まで観た後は、もう一度最初から映画を観直したくなるかもしれない。名優の芝居をこれだけたっぷりと堪能できる機会は、そうそうないと思う。アンを演じたオリヴィア・コールマンも最高。もともと舞台劇の映画化で、映画はあえてその匂いを残している。

(原題:The Father)

TOHOシネマズ市川コルトンプラザ(スクリーン5)にて 
配給:ショウゲート 
2020年|1時間37分|イギリス、フランス|カラー|2.39:1|ドルビー・デジタル 
公式HP: https://thefather.jp/ 
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt10272386/

ハンニバル [Blu-ray]

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posted with AmaQuick at 2021.05.20アンソニー・ホプキンス(出演), ジュリアン・ムーア(出演), レイ・リオッタ(出演), ジャンカルロ・ジャンニーニ(出演), リドリー・スコット(監督)
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン (2016-11-18T00:00:01Z)
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