HOKUSAI

5月28日(金)公開 全国ロードショー

時代の息苦しさに抵抗し続けた男の生涯

■あらすじ

 江戸時代後期。喜多川歌麿を売り出して評判の版元・蔦屋重三郎は、新しい才能の発見と育成に余念がない。そんな彼が目をつけたのが、勝川春朗という若い絵描きだった。もっとも師匠と諍いを起こして、今は勝川門下を飛び出しているのだが……。

 重三郎の見たところ、春朗の腕はそこそこ。才能の片鱗は感じるが、まだ自分が何を描けばいいのか迷いがある。やがて春朗は北斎へと改名。重三郎は彼を売れっ子の歌麿に会わせたり、若き天才・東洲斎写楽に引き合わせたりして挑発する。北斎は自分にしか描けない絵を求めて苦しむ。

 北斎が突破口を見出したのは、挿絵の仕事だった。滝沢馬琴や柳亭種彦などの人気作家とコンビを組み、次々にヒット作を放つ。北斎は絵師として独り立ちし、結婚し、子供も生まれた。「富嶽三十六景」は大評判を取った。

 だがこの頃から、出版に対する幕府の取り締まりが激しくなる。それは北斎の間近に迫っていた……。

■感想・レビュー

 希代の浮世絵師・葛飾北斎の伝記映画。映画は複数の章に分かれているが、前半の青年時代から壮年期を柳楽優弥が演じ、映画後半の老年期を田中泯が演じている。どちらかがメインというわけではなく、二人の俳優が均等の扱いになっているのは珍しい。単に若い頃と年老いた頃を演じるだけでなく、最後に二人が同一画面上で共演するという仕掛けもユニークだ。

 映画序盤の青年時代は、北斎と蔦屋重三郎の関わりを中心に描かれていく。蔦屋を出してきたのは、北斎を歌麿や写楽とぶつけ合わせるのが目的だろう。伝統的な浮世絵の伝統を守りながら、華麗な美人画で一世を風靡する歌麿。かたや写楽は、絵師としての訓練をまるで受けないまま、いきなり飛び出してくる独創の天才画家だ。

 北斎はここで悩む。彼は浮世絵の伝統に縛られるのを嫌い、歌麿の絵を拒絶する。しかしまがりなりにも絵師として下積みを重ねてきたことが、写楽の絵を受け入れることも拒む。北斎は誰も進んだことのない、新しい道を自分で切り開いていかなければならない。蔦屋はそんな北斎が、自分の殻を破って飛躍して行く手伝いをする。

 北斎と蔦屋の関係は、作家と編集者の関係であり、画家と画商の関係であり、クリエイターとプロデューサーの関係でもある。これはそうした現代社会に見られる関係性を、江戸時代の浮世絵師と版元の関係に投影したものだろう。北斎と馬琴のエピソードも、一流クリエイター同士のコラボレーションかセッションの現場を見ているようで面白い。

 映画後半は北斎と柳亭種彦の関係を軸に、時代の空気の中で表現に圧力を加えられるクリエイターの苦しみを描く。映画前半が若き北斎の才能が開花していく明るいドラマだとすれば、後半は優れた才能が圧し潰されていく鬱々としたドラマになる。

 北斎作品には突き抜けた明朗快活さがあり、それが今も世界で愛される理由だと思う。だがこの映画は暗すぎる。

109シネマズ木場(シアター6)にて 
配給:S・D・P 
2020年|2時間9分|日本|カラー 
公式HP: https://www.hokusai2020.com/ 
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt10787472/

葛飾北斎伝 (岩波文庫)

葛飾北斎伝 (岩波文庫)

posted with AmaQuick at 2021.06.12飯島 虚心(著), 重三, 鈴木(Unknown)
岩波書店 (1999-08-18T00:00:01Z)
5つ星のうち3.5
¥1,177Amazon.co.jpで詳細を見る

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google フォト

Google アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中