空白

9月23日(木・祝)公開予定 全国公開

少女の死が大人たちの弱さをあぶり出していく

■あらすじ

 地方都市の小さなスーパーが事件の発端だった。

 店内を巡回していた店長の青柳は、中学生の少女が化粧品の棚の前で不自然な行動をしている様子を目にする。間違いない。万引きだ。青柳は彼女の手を引いて事務室に連れて行くが、彼女は事務室から逃げ出した。青柳は慌てて後を追うが、彼の手を振り切って車道に飛び出した少女は、通りかかった車にはねられ即死する。

 少女の名は添田花音。漁師をしている父の充は妻と別れた後、男手ひとつで娘を育ててきた。なぜ娘は死ななければならなかったのか。スーパー側の対応に問題はなかったのか。娘は化粧品を万引きしたと言うが、自分は娘が化粧をしている姿など見たことがない。もし万引きしたのだとしたら、それは自分のためではなかったはずだ。学校でイジメがあったのではないか。

 娘を失った充は、その怒りと悲しみを関係する人々に容赦なくぶつける。青柳はその攻撃をまともに食らってしまう。

■感想・レビュー

 見応えのある映画だった。登場人物の誰もが普通の人たちなのだ。特別な悪人はいないし、特別な善人もいない。ちょっと気が荒いとか、ちょっと気弱とか、ちょっとお節介焼きとか、そうした性格の違いはある。でもそうした性格は、普段の生活では特に大きな欠点とは見なされない。「ある人は悪い人じゃないけど、ちょっと○○なのよね」と言われることぐらいは、誰にでもあるはずなのだ。だがひとたび大きな事件が起きると、その性格が物事の解決を阻む欠点や欠陥になってしまう。

 この映画では亡くなった少女の父が果敢な行動力を発揮して、それが周囲をどんどん巻き込んでいくという体裁をとっている。確かに彼の言動は極端なのだが、そのような行動をせざるを得ない彼の気持ちは、多くの人が理解すると思う。むしろ映画の前半で奇妙なのは、彼に罵声を浴びせられるスーパー店長の対応だろう。なぜ言い返さないのか。なぜ自己主張しないのか。なぜ警察に相談しないのか。映画の後半になって、彼がこうした行動を取る理由につながる出来事が彼の口から語られる。

 少女の父とスーパー店長に共通するのは、自分自身が抱え込んできた「負い目」なのだ。これは映画に登場する多くの人たちが抱えるものだ。少女の父も、スーパーの店長も、少女の学級担任も、少女をはねた自動車の運転手も、「あの時自分は何かできたのではないか」という責任を感じている。その「何か」の正体を探すのが、この映画のテーマなのかもしれない。

 漁師の添田充を演じた古田新太は、映画の最初から100%不機嫌な表情。娘を失った後は、その不機嫌ぶりに拍車がかかっていく。間違いなくこの男が映画の主人公だが、観客を不快にさせ、不安にさせる主人公だから、映画を観ていても息苦しくなってくる。

 人間が持つ弱さや不完全が生み出した悲劇を、丁寧に描ききったヒューマンドラマ。映画ファンなら今年観ておくべき1本だ。

角川映画試写室にて 
配給:スターサンズ、KADOKAWA 
2021年|1時間47分|日本|カラー 
公式HP: https://kuhaku-movie.com/ 
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt14605258/

BLUE [DVD]

BLUE [DVD]

posted with AmaQuick at 2021.06.17松山ケンイチ(出演), 木村文乃(出演), 柄本時生(出演), 吉田恵輔(監督)
TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D) (2021-08-11T00:00:01Z)
5つ星のうち5.0
¥3,218Amazon.co.jpで詳細を見る

空白」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: 柴田昌弘の「ラブ・シンクロイド」を読む | 新佃島・映画ジャーナル

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google フォト

Google アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中