Arc アーク

6月25日(金)公開 全国ロードショー

永遠の命と引き替えに人は何を失うのか?

■あらすじ

 19歳のリナはダンサーの仕事をしていた際、ボディワークス社の社長エマにスカウトされる。会社はプラスティネーションという技術を使って、人や動物の遺体を生きていた頃の姿のまま保つことを売りにしている。それから10数年後、リナは会社でトップクラスのプラスティネーション技術者に成長していた。

 エマの弟アマネは、姉とはまったく別の方法で「永遠の命」を手にする研究を進めていた。老化物質の生成を抑制する物質を体内に注入することで、人間は老いない身体を手に入れることができる。アマネはリナに最初の被施術者になることを求め、リナは人類で初めて不老不死を手に入れた。アマネも同じく不老化処置をし、二人は結婚した。

 それから20年ほどたった頃、アマネの身体に異変が起きた。彼の肉体は遺伝子情報の不具合から不老化処置が完全には行えず、急速な老化の末に亡くなってしまう。ひとり残されたリナは、ある決断をする……。

■感想・レビュー

 中国系アメリカ人作家ケン・リュウの短編小説「円弧(アーク)」を、『愚行録』(2017)や『蜜蜂と遠雷』(2019)の石川慶が脚色・監督した作品。主演は芳根京子。この映画は全体に、観客の感情移入を拒むようなところがある。登場人物たちは感情を表立って見せることが少なく、観客はその無表情な顔の奥に隠された感情を推理しなければならない。でも、そこに感情はあるのだろうか?

 この物語で面白かったのは、不老不死を手に入れたのが主人公だけではないことだ。主人公は最初にそれを手に入れたが、同じ技術は広く社会に普及して、例外はあっても原則誰でも不老不死になることができるようになっている。主人公だけが特別なのではなく、主人公も無数にいる死なない人間のひとりなのだ。

 人間は誰にでも訪れる「死」との対比の中で、自分自身の「生」を考え執着する。死があるからこそ、有限な生が光輝くのだと考える人も多い。映画後半で描かれているのは、その関係が逆転した世界だ。そこでは人が「永遠の命」と対比することで、人々が「死」について考え執着しているように見える。

 だがこの映画は最初から「死に執着する人々」を描いていたのではないか。誕生したばかりの赤ん坊は、その対極にある死の陰画だ。主人公はダンサーでもあるが、その振り付けは前衛的な舞踏だった。暗黒舞踏の開祖である土方巽は、「舞踏とは命がけで突っ立った死体である」と言っている。ダンスは死の表現でもあった。プラスティネーションは生を模倣する「永遠の死」であり、永遠の命を手に入れた人々は「死から逃避し続けること」でむしろ死にとらわれている。

 『アーク』というタイトルは命を運ぶ箱船(Ark)を連想させるが、本作のタイトル『Arc』は円弧という意味だ。生を欠いた死も、死を欠いた生も、部分的な円弧に過ぎない。人は死を受け入れることで、完全なサークル(円)に至るのだ。

ユナイテッド・シネマ豊洲(3スクリーン)にて 
配給:ワーナー・ブラザース映画 
2021年|2時間7分|日本|カラー、白黒|シスマスコープサイズ 
公式HP: https://wwws.warnerbros.co.jp/arc-movie/ 
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt14663456/

もののあはれ (ケン・リュウ短篇傑作集2)

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Arc アーク」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: 1回目のワクチン接種後に土砂降りの雨 | 新佃島・映画ジャーナル

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