10月15日(金)公開予定 テアトル新宿ほか全国ロードショー
言葉にならない思いを丁寧に描いた青春ドラマ
■あらすじ
高校生の国木田陽は、もうずいぶん長く母親のいない父娘二人暮らしをしている。ある日、父の直から「恋人ができた」と打ち明けられる。それから間もなく父は再婚し、新しい母となった美子と幼い妹のひなたが一緒に暮らすようになった。
陽と同じ美術部に所属している清原陸は、心臓の病気があって中学まで打ち込んでいたバスケを卒業と同時に辞めた。父は仕事で世界中を飛び回り、家では母と父方の祖母の三人で暮らしている。ある日、陸は陽に誘われてあるギャラリーで開催されている個展を訪れるのだが……。
それは陽の母・佐千代の個展だった。画家として活躍している佐千代は、高校生になった陽の顔を見ても我が子だとは気付かない。そのことにショックを受けて、陽はギャラリーを飛び出してしまう。母はまだ幼い自分を置き去りにして家を出てしまった。自分は母に愛されていなかったのではないだろうか? 陽はそんな思いに苦しめられていた。
■感想・レビュー
窪美澄の短編集「水やりはいつも深夜だけど」に収録されている同名短編小説を、今泉力哉監督が脚色・監督した作品。共同脚本は『愛がなんだ』(2019)でも今泉監督と組んでいる澤井香織。主人公の陽を志田彩良が、友人の陸を鈴鹿央士が演じているが、この二人の初々しさがじつに良い。月並みな言葉ではあるけれど、「フレッシュ」とか「瑞々しい」という言葉がぴったりの魅力的なキャスティングだ。
彼らを支える周囲の大人たちも、実力のある俳優たちが固めている。陽の父を井浦新、父と離婚した母の佐千代を石田ひかり。陸の母が西田尚美で、祖母を演じた梅沢昌代も上手い。劇中で一番印象的なのは、陽の父の再婚相手を演じた菊池亜希子。映画やドラマでよく見る顔ではあるが、今回の役はすごく良かったと思う。4歳の娘を持つ母親役だが、本人にも似た年頃の娘さんがいるようだ。
父の再婚、実母との再会、友人の手術、進路への悩み、幼い恋心など、ドラマチックになりそうな要素はあちこちにあるのだが、どれもさらりと描いて、あえてドラマチックにはしていない。これは「出来事」を描く映画ではなく、その出来事を受けた登場人物たちの心の動きを追う映画なのだ。心の動きは表情に表れる。特に目だ。だからこの映画は顔のアップが多い映画になっている。今泉作品の魅力は会話にあるのだが、今回の映画はそれより表情に魅力を感じる。表情は言葉以上に雄弁。目は口ほどにものを言うのだ。
ただしこれは、半分はクレショフ効果によるものだと思う。全体に淡々とした流れの映画なので、登場人物たちの表情は明確に何かを語るわけではなく、無表情に近い曖昧なものであることが多い。だがその無表情が物語の特定の場所に置かれると、映画を観る人はそこから人物たちの感情や心の内にある思いを勝手に読み取るのだ。これは映画を知り尽くした人だからできる、じつに巧みな表現技法ではなかろうか。
オンライン試写にて
配給:イオンエンターテイメント
2021年|1時間55分|日本|カラー
公式HP: http://kasokeki-movie.com/
IMDb: https://www.imdb.com/name/nm4219316/
posted with AmaQuick at 2021.07.19窪 美澄(著)
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