7月16日(金)公開 全国ロードショー
我々は主人公に復讐される側に立っている
■あらすじ
コーヒーショップで働くキャシーには、奇妙な行動癖がある。夜になると一人で盛り場に出かけ、ヘベレケに酔った振りをして、見知らぬ行きずりの男にお持ち帰りされるのだ。男の家に入っていざコトが始まろうとすると、彼女は自分がしらふであることを明かして男を震え上がらせる。
ある日彼女の働く店に、学生時代の友人ライアンがやってくる。今は小児科医をしているという彼は、成績優秀だったキャシーが医大を中退してしまったことを残念がる。ライアンの猛アプローチもあって、二人はデートの約束をする。だがこの出会いが、キャシーの過去のトラウマを蘇らせることになる。
キャシーにはニーナという幼なじみの親友がいた。華やかで社交的な彼女に対して、キャシーはあまり目立たないタイプ。だが二人は成績優秀で共に医大に進学した。二人の前には、輝かしい未来が待っている。だが大学で起きたある事件が、二人の運命を狂わてしまった……。
■感想・レビュー(ネタバレの可能性があります)
今年のアカデミー賞で5部門にノミネートされ、エメラルド・フェネルが脚本賞を受賞した作品。他の4部門(作品賞、監督賞、主演女優賞、編集賞)も受賞しておかしくない内容だと思うが、これは他の作品もあっての競争だから仕方がない。物語の中心に「ある事件」を置き、それをミステリーの核にしたまま、主人公をある行動へと追い詰めていく脚本はよくできている。
映画の中に登場する人たちは、その事件について一通りのことを知っているのに、映画を観ている観客だけが蚊帳の外に置かれているという構成。一歩間違えると独りよがりなものになりそうだが、映画は事件の内容を小出しに観客に明かすことで、観客を映画のラストまで引っ張っていく。
あまり差し支えない範囲で述べておくと、これは準強姦事件の被害者となった友人の復讐をする女性の物語だ。主人公のキャシーの友人ニーナは、学生パーティの場で酩酊している時、本人の意思に反して男性学生にもてあそばれる。だが「合意の上だ」と言う加害者は二重三重に守られ保護されるのに対し、被害者に味方する者はほとんど誰もいなかった。
性被害について「被害者に落ち度があった」という話は日本でもよく聞くのだが、この映画を観ると、こうした被害者バッシングはアメリカでもまったく違いがないことがわかる。男たちは加害を認めず互いにかばい合う。男社会で「勝ち組」になる女たちは、そんな男の価値観を否定せず、むしろ自分も同じ価値観を共有しようとさえする。
映画はそんな価値観に反逆する女性を主人公にした復讐劇。主人公キャシーの計画通りに復讐は進んでいく。だがその危うさには、映画を観ながらハラハラしてしまうのだ。なぜ彼女がこれほどまでのリスクを抱えて、孤軍奮闘しなければならないのだろうか?
映画のあとも後味の苦さがずっと残るのは、映画を観る我々も、主人公を追い詰めた側に立っているからだろう。
(原題:Promising Young Woman)
TOHOシネマズ錦糸町オリナス(スクリーン6)にて
配給:パルコ
2020年|1時間53分|アメリカ|カラー|2.39:1
公式HP: https://pyw-movie.com/
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt9620292/
Promising Young Woman (Original Motion Picture Soundtrack)
posted with AmaQuick at 2021.07.20Promising Young Woman / O.S.T.(アーティスト)
Capitol (2020-03-03T15:00:00.000Z)
¥1,553Amazon.co.jpで詳細を見る
「プロミシング・ヤング・ウーマン」への1件のフィードバック