83歳のやさしいスパイ

7月9日(金)公開 シネスイッチ銀座、シネマカリテほか全国順次公開

真面目で優しい素人探偵の大冒険

■あらすじ

 チリの新聞に奇妙な求人広告が掲載される。「80~90歳の男性募集。経歴・資格不問」。多くの高齢男性が応募する中、雇われたのはセルヒオ・チャミーという83歳の老人。雇用主のロムロは興信所を経営しており、セルヒオには高齢者養護施設への潜入調査員としての仕事が与えられる。

 ロムロに調査を依頼したのは、施設に入居しているソニアの家族。セルヒオは施設に新たな入居者として入り込み、ソニアの周辺を調べて報告しなければならない。

 だが普通の老人をスパイに仕立てるのは、並大抵の苦労ではない。小型カメラや隠しカメラを用意して使い方をレクチャーし、スマホでの電話連絡方法をマスターさせねば仕事にならない。だがもともとまじめな性格のセルヒオは、これらを無事にマスター。施設には体験入居の名目でもぐり込むことに成功する。セルヒオは施設の情報を得るため、ソニアや周囲の人たちと打ち解けて話をするようになるが……。

■感想・レビュー

 2020年度のアカデミー賞で「長編ドキュメンタリー映画賞」にノミネートされたチリ映画。ドキュメンタリー映画ではあるが、入念な準備と仕込みが施されていてフィクション映画のように楽しめる。これは映画に登場する状況設定がフィクションで、その中に何も知らない人たちを放り込んでどう行動するかを記録しているのだ。

 映画の中で詳しくは説明されていないが、おそらく「高齢者施設入居者の家族が興信所に調査を依頼した」という設定がフィクションなのだと思う。しかしセルヒオという老人はこの設定を本物だと信じて施設に入所し、熱心に調査を行っている。また施設の側にも映画の趣旨を完全には伝えないまま、ただ施設内の人々を取材したいとだけ伝えて撮影しているようだ。テレビの「ドッキリ番組」などによく使われている手法だが、もちろん撮影終了後には映画の内容をきちんと説明しているのだろう。

 この映画はセルヒオという老人探偵がじつに良い。映画の中で描かれているように、この老人はオーディションに応募してきたまったくの素人なのだと思う。それでいてなかなかの二枚目で、物腰も柔らかく、真面目で、人当たりが良い。彼は施設の中の様子を探るため、調査対象となる女性やその周囲の人たちに語りかけ、じつに丁寧に話を聞く。これが施設内のお婆ちゃんたちに大いに好感を持たれ、彼は施設内ですっかり人気者になってしまうのだ。

 映画を観る人はセルヒオの目を通して、施設やそこに収容されている人たちのさまざまな姿を目撃する。男性入居者もいるのだが、紹介されているのは女性入居者のエピソードばかり。これは映画の作り手が男性入居者に興味がなかったのか、撮影後に映画製作の意図を説明したとき、本人や家族が「映画に出演したくない」と断ったのかのどちらかだろう。映画に登場する女性たちが全員とても魅力的なので、こうした男女格差の存在は少し気になるところだ。

(原題:El Agente Topo)

シネスイッチ銀座にて 
配給:アンプラグド 
2020年|1時間29分|チリ、アメリカ、ドイツ、オランダ、スペイン|カラー|1.85:1 
公式HP: http://83spy.com/ 
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt11394298/

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83歳のやさしいスパイ」への1件のフィードバック

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