草の響き

10月8日(金)公開予定 新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町/渋谷ほか全国順次公開

佐藤泰志の同名小説を東出昌大主演で映画化

映画『草の響き』のチラシ画像

■あらすじ

 東京での仕事に区切りを付けて、妻と二人で生まれ故郷の函館に戻ってきた工藤和雄。だが新生活を初めて早々に、自律神経失調症になって精神科の治療を受けることになる。和雄は医者から身体を動かすことを勧められ、朝晩近所を走り始めることにした。

 高校生の小泉彰は、札幌から函館に引っ越してきたがまだ学校に馴染めない。バスケ部の同級生から海岸の岩から海に飛び込む度胸試しに誘われたが、じつは彰はまるきりの金槌だ。近くのプールで泳ぐ練習を始めたとき、自分と同じ年頃の高田弘斗に声をかけられる。「俺が泳ぎを教えるから、かわりにスケボー教えてよ」。こうして二人は友達同士になった。

 和雄は走ることにのめり込み、それが生活の中心になる。何があっても朝晩は必ず走る。走る距離は伸び、タイムは縮むのも面白い。仕事は大学食堂で食器洗いのアルバイトを見つけた。自分も仕事をしている妻の純子は、そんな生活に疲れ始めていた。

■感想・レビュー

 佐藤泰志が1979年に発表した同名小説(「きみの鳥はうたえる」に収録)を、斎藤久志監督が映画化した作品。斎藤監督は脚本家でもあるのだが、今回の脚本は彼の妻でもある加瀬仁美が書いている。原作者の佐藤泰志は1990年に41歳で自死しているが、2010年の『海炭市叙景』から作品が次々に映画化。一度は全著書が絶版になっていたが、今では多くの著書が新装版として復刊。今回の映画は佐藤作品としては5本目の映画だという。

 佐藤作品の映画を僕は『海炭市叙景』と『そこのみにて光輝く』(2014)しか観ていないのだが、未見の『オーバー・フェンス』(2016)や『きみの鳥はうたえる』(2018)を含めて、製作はすべて函館シネマアイリス代表の菅原和博が行っている。映画ごとに監督や脚本家や出演者は違うのだが、舞台が函館であることは共通している。今回の映画も原作は八王子が舞台だったが、函館を舞台に脚色したという。

 物語は一組の夫婦の1年間を描いている。主人公の工藤和雄は東京の仕事が行き詰まって故郷の田舎に引っ込み、家事も犬の散歩も妻に押し付けたまま、自分は朝晩のランニングで現実逃避する男だ。彼が妻から妊娠を告げられる場面がいい。彼は妊娠している妻の目の前で、いきなりタバコを吸い始めるのだ。夫婦関係の破綻を的確に描いた名場面であり、演じている東出昌大のあまりに自然な「現実の拒絶」にうんざりさせられる。

 東出昌大は私生活でいろいろあって嫌う人も多い俳優だと思うが、この映画の彼はそんな嫌われ者の要素さえも役作りに利用しているのではないだろうか。東出昌大が嫌いな人は、この映画を観るとますます彼のことが嫌いになること請け合いだ。それはそれで役者冥利ではないだろうか。

 せっかく1年間を描いているので季節の変化が画面に入り込むとよかったのだが、それをエピソードの組み立てや演出で上手くカバーしている。

京橋テアトル試写室にて 
配給:コピアポア・フィルム、函館シネマアイリス 
2021年|1時間55分|日本|カラー|ビスタ|5.1ch 
公式HP:https://kusanohibiki.com/ 
IMDb:https://www.imdb.com/

きみの鳥はうたえる (河出文庫)

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草の響き」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: 名古屋の夏は東京より暑いか? | 新佃島・映画ジャーナル

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