スイング・ステート

9月17日(金)公開予定 TOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイントほか全国ロードショー

選挙をモチーフにした異色のスモールタウンコメディ

■あらすじ

 世界中の人が民主党候補ヒラリー・クリントンの勝利を信じて疑わなかった、2016年のアメリカ大統領選挙。だが勝者は共和党のトランプ候補だった。一敗地にまみれた民主党の選挙チームは、それでも次の選挙に向けて動き始める。

 選挙参謀のゲイリー・ジマーが目をつけたのは、ウィスコンシン州の田舎町・ディアケラン町議会の動画だった。動画サイトでバズった元軍人ジャック・ヘイスティングス大佐のスピーチは、まさに民主党のリベラルな考えにピッタリ。ウィスコンシンは共和党と民主党の勢力が拮抗する激戦州(スウィング・ステート)で、民主党としてはここに確固とした基盤を築きたい。ディアケランはちっぽけな町だが、大佐を新町長できれば全国的にも大きな話題になるはずだ。

 ゲイリーは単独で町に乗り込み、大佐を口説いて選挙への出馬を了承させる。そのとき大佐が突きつけた条件は、ゲイリー自身が選挙運動を仕切ることだった……。

■感想・レビュー

 映画を観はじめてすぐ、これはスモールタウンコメディだと思った。都会から何らかの事情で田舎町にやって来た主人公が、小さな町の人々の優しさや温もりに触れたり、町で出会った女性とのロマンスを通して生まれ変わっていくというのが、このジャンルによくあるパターンだ。例えばマイケル・J・フォックス主演の『ドク・ハリウッド』(1991)、ビル・マーレーの『恋はデジャ・ブ』(1993)、ジム・キャリーの『マジェスティック』(2001)などがそうだ。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)もその変種だろう。

 こうしたジャンルの映画が成立するのは、住民同士がみんな顔見知りというスモールタウンが、アメリカ人にとってある種の理想郷や心の原風景になっているからだ。だがこの映画は、アメリカ人の愛して止まないスモールタウンが、現在ひどく疲弊していることを描き出す。映画では軍施設の撤退が、町に大きな打撃を与えたという設定になっている。これは大企業の撤退で衰退した町が登場する『ノマドランド』(2021)と同じ現実だ。

 人口は減り、商店は店を閉め、空き家が目立ち、人々は夢を失ってしまう。もはやそこに、都会暮らしの主人公を魅了するスモールタウンの豊かさはない。トランプ時代に可視化されたアメリカの分断は、地方の小さな町をも分裂させている。これがアメリカの田舎町の偽らざる現実ということか。この現実を前にしてスモールタウンコメディが成立するかどうかが、この映画の挑戦でもあったのだろう。

 この映画は政治映画であり、その中でも選挙ものだ。これもアメリカ映画であればこそ成立する映画ジャンルのような気がする。日本では政治や選挙がエンタテインメント作品にならないが、アメリカ映画はこうした作品を通して、現在の政治状況や選挙制度を強烈に批判してみせる。それだけ政治や選挙が生活の身近なところにあるということなのだ。

(原題:Irresistible)

東宝東和試写室にて 
配給:パルコ、ユニバーサル映画 
2020年|1時間41分|アメリカ|カラー|1.66 : 1 
公式HP: https://swingstate-movie.com/ 
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt9076562/

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スイング・ステート」への1件のフィードバック

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