最後の決闘裁判

10月15日(金)公開 全国ロードショー

実在の事件に材を採ったミステリー劇

最後の決闘裁判

■あらすじ

 1386年12月29日。パリの試合場で、王や貴族たち臨席のもと、騎士同士の決闘裁判が行われようとしていた。彼らはなぜここで、命がけの戦いをすることになったのか?

 従騎士のジャン・ド・カルージュは、勇猛果敢な武人として戦場で名を高めた男だ。彼の親友は、同じ従騎士のジャック・ル・グリ。だが新領主としてピエール伯が赴任した頃から、カルージュとル・グリの関係に隙間風が吹き始める。

 ル・グリはピエール伯に取り入って出世コースに乗るが、無骨一辺倒のカルージュは置いてけぼり。カルージュが有力貴族の娘マルグリット結婚すると、持参金として約束されていた土地はル・グリにかすめ取られ、祖父の代から世襲の長官職も彼に奪われた。親友だった男は、カルージュの敵になったのだ。

 やがて妻のマルグリットが、カルージュの留守中にル・グリからレイプされたと告白する。これを聞いたカルージュは、ある決意を固める……。

■感想・レビュー

 リドリー・スコット監督の実録歴史ドラマ。ジャン・ド・カルージュ役はマット・デイモン。ジャック・ル・グリを演じるのはアダム・ドライバー。マルグリットにジョディ・カマー、ピエール伯にベン・アフレックという配役。デイモンとアフレックは、この映画の脚本も書いている。(ニコール・ホロフセナーとの共同脚本。)

 映画は3つのパートに分かれ、カルージュ、ル・グリ、マルグリット、それぞれの視点で同じ事件が語られる。いわゆる「羅生門形式」だ。しかしそれぞれのパートが完全に各人の一人称視点になっているわけではなく、基本的には三人称視点。各パートは緩やかに各人に焦点を当てているだけだが、それでも視点の交代によって人物が立体的に見えてくるのは面白い。

 最初は不器用で素朴な熱血漢として描かれたカルージュは、次のパートで頑固な厄介者になり、最終パートでは無教養で自分勝手な男になる。最初は領主に取り入る世渡りの上手い男として描かれたル・グリは、次のパートで努力型の苦労人で友人思いの男として描かれ、最後は体裁ばかりの浮ついた男になる。男性主人公の添え物として登場したマグリットは、次のパートで教養あふれる聡明な女性になり、最後はたくましく生き抜こうとする女主人公へと変身する。

 この映画の中には、「羅生門形式」から浮かび上がってくる究極の真実や意外な真相などない。レイプ事件そのものは揺るぎのない事実であって、三幕のドラマから浮かび上がってくるのは、この事件に関わった人間たちの多面性なのだ。その中で、血みどろの戦いを繰り広げる男たちは評価を貶められ、脇役だった女たちが舞台の中央に進み出る。

 なおこの映画で取り上げられた決闘裁判が歴史上「最後」になった理由は、決闘の結果命を落とした側が無実であった可能性があったからだ。映画はあくまでもフィクション。事件の真相については、今も議論が続いているようだ。

(原題:The Last Duel)

ユナイテッド・シネマ豊洲(9スクリーン)にて 
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン 
2021年|2時間32分|アメリカ、イギリス|カラー|2.39 : 1 
公式HP: https://www.20thcenturystudios.jp/movies/kettosaiban 
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt4244994/

最後の決闘裁判 (ハヤカワ文庫 NF 579)

最後の決闘裁判 (ハヤカワ文庫 NF 579)

posted with AmaQuick at 2021.11.07エリック・ジェイガー(著), 栗木さつき(翻訳)
早川書房 (2021-09-16T00:00:01Z)
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最後の決闘裁判」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: 教会行く、タンメン食う、映画観る | 新佃島・映画ジャーナル

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