1月14日(金)公開 全国ロードショー
これはファッション業界版『スタア誕生』だ!
■あらすじ
1978年。友人に誘われたパーティで、パトリツィアはマウリツィオ・グッチと名乗る法科の学生と知り合う。彼は名門ブランド「グッチ」の御曹司だった。彼女の猛アタックもあって二人は結婚。マウリツィオの父は結婚に猛反対して息子を勘当してしまうが、グッチを世界ブランドに育てた伯父アルドの仲介もあって、マウリツィオはグッチの経営陣に迎え入れられる。
グッチ株の半分を手に入れたものの、実質的な経営権を握っているのは伯父のアルドであることに違いがない。パトリツィアはマウリツィオに入れ知恵して、グループのお荷物になっていたアルドの息子パオロを経営から排除。さらにパオロから得た情報で、伯父アルドを追放することにも成功する。
だが会社の経営に何かと口を出すパトリツィアに、マウリツィオの心は少しずつ冷めていく。この頃、ファッションブランドとしてのグッチの価値も凋落。会社は経営破綻の危機に瀕していた……。
■感想・レビュー
この映画は、レディ・ガガが主演した映画『アリー/スター誕生』(2018)の批判的なパロディだ。
1937年の映画『スタア誕生』は、1954年、1976年、2018年にリメイクされている。(2018年版の主演がレディー・ガガ。)何度も映画になっているが、物語は基本的にどれも同じ。才能はあるが無名のヒロインが、酒浸りの有名スターに見出されて芸能界で成功への道を歩んでいく。恩人のスターと結婚したヒロインだったが、酒で身を持ち崩した夫は妻に負担をかけまいと自殺。ヒロインはその追悼式典で「私はノーマン・メイン夫人です」と挨拶する。
『ハウス・オブ・グッチ』も、才能と野心はあるが無名のヒロインが、お金持ちの御曹司に見初められて結婚する物語だ。だが夫の家族の事業は下り坂で、やがて破綻。夫は会社を追放されて亡くなり、ヒロインはマイクに向かって「私はグッチ夫人です」と語るのだ。『スタア誕生』と『ハウス・オブ・グッチ』の一番の違いは、ヒロインの夫が自殺するのではなく、ヒロインに殺されてしまうことだろう。
じつは『スタア誕生』にあったヒロイン最後の挨拶は、1976年版と2018年版には存在しない。かつては観客の感動を誘った名場面だが、1970年代以降の観客にとって「私は○○夫人です」は時代錯誤に見えるという判断だろうか。だがそれを言うなら、身を持ち崩していく夫を、自分の築き上げたキャリアを捨ててまで献身的に支えるというヒロイン像はどうなのか? これも十分に時代錯誤なファンタジーではないのか?
そこで『ハウス・オブ・グッチ』の登場だ。このヒロインは夫やその家族を利用して自分自身の成功をつかむ。ここまでは『スタア誕生』の変奏曲だ。だが夫が経営者としては無能で、しかも他の女と浮気するに至って、彼を抹殺することを決意する。この方が今この時の女性の生き方として、よほど正直ではなかろうか。
(原題:House of Gucci)
ユナイテッド・シネマ豊洲(8スクリーン)にて
配給:東宝東和
2021年|2時間39分|アメリカ|カラー|2.39 : 1
公式HP: https://house-of-gucci.jp/
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt11214590/
posted with AmaQuick at 2022.01.22サラ・ゲイ・フォーデン(著), Sara Gay Forden(著), 実川 元子(翻訳)
早川書房 (2021-12-21T00:00:01Z)
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