流浪の月

2022年5月13日(金)公開 全国ロードショー

誰にも言えなかった本当のこと

流浪の月

■あらすじ

 家内更紗には二つの秘密がある。一つは誰も口にしないが、誰もが知っている秘密であり、もう一つは、更紗ともう一人の人間しか知らない秘密だった。

 彼女は小学生の頃、近所に住む大学生に誘拐されて、数ヶ月間家に軟禁されていたことがある。大学生は逮捕され、更紗は保護された。だがその様子は近くに居た人たちにスマホで撮影され、スクープ動画として拡散した。

 今ではそれを、彼女に向かって直接口にする人はいない。偶然それを知っても、みんな彼女には黙っている。これが一つめの秘密……。

 だが、更紗は犯罪被害者ではなかった。当時両親を失い親戚宅に引き取られていた更紗は、そこで深刻な虐待を受けていた。そこから彼女を救い出して保護してくれたのが、犯人として捕らえられた大学生・佐伯文だった。これが真実であり、もう一つの秘密。

 それから15年。大人になった更紗は偶然、文に再会する。文は更紗に気付かない様子だったのだが……。

■感想・レビュー(ネタバレがあります)

 優れた映画の多くがそうであるように、この映画もさまざまな語り方や解釈が可能な作品だと思う。これはデジタルタトゥーやネットリンチの物語であり、連鎖し遺伝するDVの物語であり、崩壊して行く男性社会の中で生きる男たちと、そこで弱者であることを強いられる女たちの物語であり、不寛容な現代社会の物語でもある。

 僕はLGBTQ時代のラブストーリーとしてこの映画を観ていた。更紗と文の関係は、普通の男女の愛情関係ではないかもしれない。だがこれは普通ならざる男と女、あるいは孤独の人間同士が惹かれ合い結びつく、愛の物語としてよくできている。更紗と文の関係が愛でないなら、いったいこの世にどんな愛があると言うのだろうか。

 更紗は他者との性的な結びつきを求めないアセクシャルな女性であり、文は男性としての性機能を欠いた男性だ。この二人は結果として都合のいい組み合わせになって、互いに居心地のいい関係を築いていくのだが、僕はここに根本的な危うさを感じる。

 更紗と文の関係は、遠からず破綻するだろう。それは世間の好奇の目やバッシングが問題ではなく、二人が異性に求めているものが違うからだ。更紗は相手に求められれば性的関係に応じないではないが、本心ではそれを嫌悪しているし、文もそれを知っている。文は女性と性的な関係を結べないが、本心では女性と結ばれたいと願っているし、彼の苦しみの核心がそこにあることを更紗も知っている。

 肉体的には男性を受け入れられるが、気持ちの上では受け入れられない女と、肉体的には女性に受け入れられることはないが、気持ちの上では受け入れられたいと願う男の組み合わせ。これはどう考えたって、互いに苦しいものになると思う。

 更紗と文は、天が結び合わせた運命の恋人同士ではない。互いに決定的に相容れない、受け入れがたい部分を持っているのだ。もっとも世間の恋人同士や夫婦なんて、みんなそうかもしれないが……。

TOHOシネマズ日比谷(スクリーン8)にて 
配給:ギャガ 
2022年|2時間30分|日本|カラー 
公式HP: https://gaga.ne.jp/rurounotsuki/
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt15150608/

流浪の月 (創元文芸文庫 LA な 1-1)

流浪の月 (創元文芸文庫 LA な 1-1)

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凪良 ゆう(著)
東京創元社 (2022-02-26T00:00:01Z)
5つ星のうち4.4
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