教育と愛国

2022年5月13日(金)公開 ヒューマントラストシネマ有楽町、シネリーブル池袋、UPLINK吉祥寺

教育現場に押し寄せる不気味な影

■あらすじ

 放送批評懇談会が国内の優秀なテレビ番組に贈るギャラクシー賞。2017年度にその大賞を受賞したのが、毎日放送(MBS)のドキュメンタリー番組「映像’17/教育と愛国〜教科書でいま何が起きているのか」だった。

 この映画はその番組に追加取材を加えて再編集した劇場版。道徳の「教科化」からはじまり、復古主義的な教育、歴史教科書への検定の締め付け、老舗教科書会社の倒産、新しい歴史教科書を作る会の問題など、さまざまな問題を取り上げながら、学校教育に少しずつ加わっている圧力の存在を浮き彫りにしていく。

 文科省の検定を受けた教科書を「反日」と断罪し、採択校に匿名で抗議ハガキを大量に送りつける人々の存在。学会で承認された学説より、政府の閣議決定が優先される教科書製作現場の様子。そして歴史的な事実より、教科書では愛国心の醸成が優先されるべきだと臆面もなく述べる人々。

 学校教育は子供たちをどうしたいのだろうか?

■感想・レビュー

 学校現場や教科書作りの現場で起きる、さまざまな問題が紹介されているドキュメンタリー映画。しかしこの映画を観ていても、何か釈然としないのだ。

 学校や教科書会社に、多方面から圧力が加えられていることはわかる。それはさまざまな証言や事例から、はっきりとわかるはずだ。だがその圧力を、誰がどんな目的でかけているのか? これがまったくわからない。

 象徴的なのは教科書検定だろう。文科省の検定官は、提出された教科書のどの部分がダメかは指摘する。だがそれがなぜダメなのかを具体的には指導しないし、ましてやどう書き直せば検定に通るのかという正解を教えてくれるわけでもない。「とにかくダメだ。あとは自分で考えろ」という理屈だ。教科書会社は検定官の望みを推し量って、文科省が希望する内容の教科書に書き替えていく。

 現在学校現場に圧力を加える人たちの行動は、概ね全てがこうした理屈で動いている。「それはダメです。ダメな理由は具体的には言いませんが、適切な内容に改めてください」という理論。映画の中にはカクカクシカジカでこうなのだと持論を述べる人もいるが、それは少数派だろう。多くは持論をまともには述べないし、何がどうだからどうしてほしいのかを明確には主張しない。

 この映画でも取り上げられている従軍慰安婦問題をテーマにした『主戦場』(2018)という映画があったが、あれは「ダメだ」側の論理を、主張する人たちを直接画面に登場させて語らせるから、論点が明確でわかりやすかった。しかしこの映画に、そうした「わかりやすい主張」は登場しない。そこに現れるのは、理不尽で不可解な、それでいて明確な指向性を持つ無言の圧力だ。

 だがこうした「顔の見えない無言の圧力」こそが、現代日本の実状なのかもしれない。圧力をかける人たちは、いったい日本をどこに導こうとしているのだろうか? 案外本人たちにも、それはわからないのかもしれないな……。

配給・宣伝:きろくびと 
2022年|1時間47分|日本|カラー|DCP 
公式HP: https://www.mbs.jp/kyoiku-aikoku/
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt20667818/

教育と愛国――誰が教室を窒息させるのか

教育と愛国――誰が教室を窒息させるのか

posted with AmaQuick at 2022.06.11

斉加 尚代(著)
岩波書店 (2019-05-31T00:00:01Z)
5つ星のうち3.1
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