教育と愛国

2022年5月13日(金)公開 ヒューマントラストシネマ有楽町、シネリーブル池袋、UPLINK吉祥寺

教育現場に押し寄せる不気味な影

■あらすじ

 放送批評懇談会が国内の優秀なテレビ番組に贈るギャラクシー賞。2017年度にその大賞を受賞したのが、毎日放送(MBS)のドキュメンタリー番組「映像’17/教育と愛国〜教科書でいま何が起きているのか」だった。

 この映画はその番組に追加取材を加えて再編集した劇場版。道徳の「教科化」からはじまり、復古主義的な教育、歴史教科書への検定の締め付け、老舗教科書会社の倒産、新しい歴史教科書を作る会の問題など、さまざまな問題を取り上げながら、学校教育に少しずつ加わっている圧力の存在を浮き彫りにしていく。

 文科省の検定を受けた教科書を「反日」と断罪し、採択校に匿名で抗議ハガキを大量に送りつける人々の存在。学会で承認された学説より、政府の閣議決定が優先される教科書製作現場の様子。そして歴史的な事実より、教科書では愛国心の醸成が優先されるべきだと臆面もなく述べる人々。

 学校教育は子供たちをどうしたいのだろうか?

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世界で一番美しい少年

2021年12月17日(金)公開 ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国順次公開

世界一有名でマイナーな俳優の現在

世界で一番美しい少年

■あらすじ

 1971年に公開された、ルキノ・ヴィスコンティ監督の『ベニスに死す』。その中で、主人公の老作曲家が美の象徴として崇めるようになる美少年タジオを演じたのは、スウェーデン人の15歳の少年ビョルン・アンドレセンだった。映画完成後、監督のヴィスコンティはアンドレセンを「世界で一番美しい少年」と称賛。映画はヒットしてアンドレセンは一躍世界のアイドルとなった。だがこのことが、彼の運命を大きく変えていくことになる。

 アンドレセンに父親はいない。母は未婚のまま彼を産み、父親の名を彼や周囲の人の誰にも打ち明けなかった。その母はアンドレセンが10歳の頃に失踪し、やがて森の中で遺体が見つかった。彼は祖母に引き取られて何不自由なく育てられるが、家の中で母の死に関する話はタブーだった。祖母はヴィスコンテのオーディションに孫を応募する。

 それから半世紀。アンドレセンはゴミ溜めのようなアパートで暮らしていた。

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なれのはて

12月18日(土)公開予定 新宿K’s cinemaにてロードショー

男たちの流れ着いたフィリピンは天国か地獄か

映画『なれのはて』のチラシ画像

■あらすじ

 嶋村正は元警察官。フィリピーナに貢いだ果てに、離婚してフィリピンで仕事をすることに。だが脳梗塞で倒れて失業。今は偽装結婚の相手から、わずかな金を与えられて暮らしている。

 安岡一生は仕事でフィリピンにやってきて、そのまま居ついてしまった男だ。マニラで日本人向けのガイドとして細々と仕事をしながら、事実婚のフィリピン人女性と暮らしている。

 谷口俊比古は元ヤクザだという。日本で事件を起こしてフィリピンに逃れ、流れ流れて行き着いた路上生活。そこで現地の人たちに助けられ、今では自転車屋の軒先に居候中だ。

 平山敏春は離婚後にフィリピンパブにはまり、その後は知人に誘われフィリピンへ。だが知人に金を持ち逃げされ、今は零細な仕事をしながら妻や子供たちと暮らしている。

 本作は「困窮邦人」と呼ばれることもある男たちの姿を、フィリピンのスラム街の奥まで数年がかりで追いかけたドキュメンタリー映画だ。

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これは君の闘争だ

11月公開予定 シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

政治闘争に挑む高校生たちの青春

映画『これは君の闘争だ』チラシ画像

■あらすじ

 2015年10月。ブラジルのサンパウロで、教育予算削減に抗議する高校生たちが学校をロックアウトする事件が起きた。この事件はブラジル全土に波及し、翌月には200以上の学校が学生たちに占拠されたという。このドキュメンタリー映画は、この運動に参加した高校生たちの証言に基づいている。

 話は2013年にさかのぼる。この年の6月、サンパウロの公共交通料金値上げに対する大規模な抗議デモが発生した。路上に出たデモ隊は、やがてバス料金値上げ意外にもさまざまな抗議の声を上げ始めて大規模な反政府デモに発展。これを鎮圧するため動員された警官隊の暴力も問題となり、政府は交通料金の値上げを撤回した。この時の成功体験が、2015年の高校占拠への導火線となる。

 高校生たちの学校占拠は成功する。だが行政もマスコミも、このことをほとんど無視した。社会に自分達の主張を伝えようと、高校生たちはさらなる行動に打って出る。

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83歳のやさしいスパイ

7月9日(金)公開 シネスイッチ銀座、シネマカリテほか全国順次公開

真面目で優しい素人探偵の大冒険

■あらすじ

 チリの新聞に奇妙な求人広告が掲載される。「80~90歳の男性募集。経歴・資格不問」。多くの高齢男性が応募する中、雇われたのはセルヒオ・チャミーという83歳の老人。雇用主のロムロは興信所を経営しており、セルヒオには高齢者養護施設への潜入調査員としての仕事が与えられる。

 ロムロに調査を依頼したのは、施設に入居しているソニアの家族。セルヒオは施設に新たな入居者として入り込み、ソニアの周辺を調べて報告しなければならない。

 だが普通の老人をスパイに仕立てるのは、並大抵の苦労ではない。小型カメラや隠しカメラを用意して使い方をレクチャーし、スマホでの電話連絡方法をマスターさせねば仕事にならない。だがもともとまじめな性格のセルヒオは、これらを無事にマスター。施設には体験入居の名目でもぐり込むことに成功する。セルヒオは施設の情報を得るため、ソニアや周囲の人たちと打ち解けて話をするようになるが……。

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シー・イズ・オーシャン

9月17日(金)公開予定 ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

映像は美しいが作り手の狙いがわからない

■あらすじ

 チンタ・ハンセルは、インドネシア出身の女性サーファーだ。幼い頃から父と共に地元の海に親しみ、いつかハワイ・オアフ島のパイプラインに挑むことを夢に見ている。血筋か才能か、やがて彼女は地元の大会で敵なしのサーファーへと成長する。そしていよいよ、サーフィンの聖地ハワイの大会に出場することになった。

 アンナ・バーダーは、断崖絶壁から海に飛び込むクリフダイビングのヨーロッパチャンピオン。飛び込み台から水面まではわずか数秒。だが着水姿勢が乱れれば、命に関わる大ケガをすることもある。飛び込み台への断崖を上りながら、彼女は自分の心を整える。

 オーシャン・ラムジーはサメ保護活動家。映画などを通じて人を襲う危険な生物だと誤解されているサメと親しみ、サメの真実の姿を人々に伝えるためのツアーを主催している。正しく接すれば、サメは決して人を襲わない。

 本作には、海に関わる9人の女性たちが登場している。

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パンケーキを毒見する

7月30日(金)公開予定 新宿ピカデリーほか全国ロードショー

デタラメな菅義偉政権の生みの親は誰なのか?

■あらすじ

 この映画は菅義偉首相本人はもちろん、彼に近い国会議員、市議会や県議会議員、マスコミや評論家、利用しているホテルや飲食店などにも取材を拒否された作品である……。

 菅義偉というのはいかなる人物か? それは気配りの人だという。少し斜に構えているマスコミ記者も、直接本人に会って取材やインタビューをすると、一発でその人柄に惚れ込んで応援団になってしまう。

 彼は大学卒業後に政治家秘書として政治の世界に足を踏み入れたが、当時から腰が低く、人一倍仕事ができるから、周囲の評価は高かった。やがて横浜市長選に立候補。ベテランの現職を破って38歳で初当選。その後は横浜の影の市長と呼ばれるまでの実力を付け、その実績を引っさげて国会議員になった。

 だが腰の低さだけで一国の首相にはなれるほど、この国の政治は甘くない。菅義偉は優れた政治的嗅覚を持ち、ここぞという場所で大博打に打って出る勝負師でもあった……。

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らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-

1月15日(金)公開 テアトル新宿ほか全国順次公開

コロナ禍で行われたアイドルオーディション

 2020年3月。関東近郊の某所で、音楽事務所WACKの合宿オーディション「WACK合同オーディション2020」がスタートした。事前に書類審査などで選ばれた参加者は18名。オーディションの様子はニコ生で動画配信され、多くの視聴者たちの前で毎日何名かずつが脱落して行くサバイバルマッチになっている。オーディション参加者は個人情報を守るため全員仮名。今回この中で注目されていたのは、前年のオーディションで無念の初日リタイアとなったワキワキワッキーの再挑戦。そして、インポッシブル・マイカという候補生だった。オーディションから数日で、参加していた候補生の半数が脱落。その後は毎日数名ずつが脱落して行く中で、このふたりは終盤まで戦列に残り続ける。同じ頃、実力者や個性派がそろうオーディション会場には、自分の殻を破れずもがく候補生トト・パーティン・トトがいた。特殊な環境の重圧で、彼女の表情は固くこわばっていく。

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ミッドナイト・ファミリー

1月16日(土)公開 ユーロスペースほか全国公開

いろいろと危うい民間救急隊の日常

 オチョア家の仕事は民間救急隊だ。事故があった、事件があった、病人が出た、ケガ人がいると聞けば、一目散に現場に駆けつけて、患者の救護と病院への搬送を行う。東京23区に匹敵する人口900万人のメキシコシティに、公営の救急車はたった45台しかないのだ。その不足を補うために、オチョア家のような民間救急隊が患者を病院に運ぶのだが、彼らの収入はその見返りとして患者から受け取る謝礼のみ。だが民間救急隊は行政未公認のもぐり稼業。搬送した患者や家族が「金は払わない」と言えば、それ以上の無理な取り立てはできない。患者とトラブルを起こせば、警察に逮捕されかねないのだ。民間救急隊の競争は激しい。警察無線を傍受したり、知り合いの警官からの電話連絡で現場に駆けつける必要がある。だがその患者が、料金を支払ってくれるとは限らない。メキシコシティには貧しい人も多いからだ。オチョア家の人々は、もう何日も収入が無い状態だった。

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三島由紀夫 vs 東大全共闘/50年目の真実

3月20日(金)公開 TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー

そこでは言葉がまだ生きていた

 1969年(昭和44年)5月13日火曜日。東大全共闘は駒場キャンパス900番教室に、作家の三島由紀夫を招いて討論会を行った。革命を主張する左翼学生と、前年に右翼学生を集めて「楯の会」を作り、時代錯誤な保守反動の親玉のように見られていた文学者の直接対決だ。学生たちは三島を「近代ゴリラ」と笑い、「三島を舞台上で論破して切腹させる!」と息巻いた。一方で一人敵地に臨む三島は、懐に短刀と鉄扇を忍ばせていたという。壇上での討論は幾つかのテーマで区切られ、三島はそれに対して誠実に答えていく。それは学生たちの前で披露される、三島の思想のエッセンスだった。討論会は事前の思惑を裏切るように、友好的で和気藹々としたムードで終わる。この映画は当日の様子を撮影したTBSの記録映像を中心に、討論会にいたる当時の日本の世相と三島の足跡、討論会後の三島の自決、討論会に関わった人たちの現在のインタビュー等で構成されている。

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