異人たち

4月19日(金)公開 全国ロードショー

山田太一の小説をイギリスで再映画化

異人たち

■あらすじ

 ベテラン脚本家のアダムは、ロンドン市内の仕事場を兼ねたタワーマンションで一人暮らしをしている。便利な場所にあるはずのマンションだが、なぜか住人は数えるほどしかいない。ある晩、同じマンションに住んでいるという青年ハリーが部屋を訪ねて来る。

「このマンションに住んでるのは僕ら二人だけなんだ。よかったらお近づきに一緒に飲まないか?」

 何度か見かけたことがある男だが、彼と言葉を交わしたことはない。そんな男からの突然の申し出を、アダムは丁重に断った。

 そのしばらく後、アダムは子供時代に両親と暮らしていた街を訪ねた。懐かしい街並み。そして懐かしい人の姿。それは父だ。父に誘われるまま、昔の我が家を訪ねるアダム。「すぐそこで意外な人に会ったから連れて来たよ」と、父はアダムを家の中に招き入れる。そこには懐かしい母の姿があった……。

 これは夢なのか? アダムの両親は、彼がまだ幼い頃に事故で亡くなっているのだ。

■感想・レビュー

 山田太一の小説「異人たちとの夏」(1987)を、物語の舞台を現代のロンドンに移して再映画化した作品。最初の映画化は1988年の大林宣彦監督作だから、今回は40年ぶりの映画化ということになる。

 僕は原作未読だが、物語の筋立ては基本的に大林版の映画と変わらない。大きく違っているのは、主人公が同性愛者になり、マンション内で出会う恋人も同性になっていることだ。このことで、映画は「都会で暮らす現代人の孤独」というテーマを維持しながら、「同性愛について語り合う両親と息子」というドラマになった。

 今回監督と脚色を兼務したアンドリュー・ヘイは1976年生まれで、主演のアンドリュー・スコットも同年生まれ。映画の主人公もだいたい同年代だとすると、彼の両親が亡くなったのは1980年代後半だ。この時代には世界中のゲイ・コミュニティが、HIV感染症(AIDS)への恐怖と社会的偏見や嫌悪から、壊滅的なダメージを受けていた。映画の主人公アダムは、そうした時代に自らの性指向を自覚し、多感な思春期を迎えることになる。

 この映画は「山田太一の小説」をモチーフにしながら、そこに1980年代〜90年代を生きたゲイ男性の姿を描き出そうとしているのだ。

 それから30年。アラフィフになった主人公は、死別した両親に改めて自分が同性愛者であることをカミングアウトする。ところが両親の認識は同性愛やAIDSへの無知や偏見が厳しかった1980年代のままだから、主人公は両親の反応に深く傷つくことになる。

 時代によって、人の認識は大きく変わる。映画のもうひとりの主人公であるハリーは20代の青年だが、同じ同性愛者であっても、彼にとってアダムの生きた時代は遠い昔話になっている。たった10年か20年の違いが生み出した、社会的に修復不可能な分断。そうた分断によって、「我々は誰もが見知らぬ他人同士」(原題)になってしまうのかもしれない……。

(原題:All of Us Strangers)

ユナイテッド・シネマ豊洲(6スクリーン)にて 
配給:ディズニー 
2023年|1時間45分|イギリス|カラー 
公式HP:https://www.searchlightpictures.jp/movies/allofusstrangers
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt21192142/

異人たちとの夏 (新潮文庫)

太一, 山田(著)

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