パスト ライブス/再会

4月5日(金)公開 全国ロードショー

交際期間ゼロ秒の運命の恋人たち

パスト ライブス/再会

■あらすじ

 ソウルで暮らす12歳のノラと同い年のヘソンは、幼なじみの親友同士。「わたしヘソンと結婚すると思う」とノラは言い、ヘソンも彼女を特別な存在だと感じている。だがノラが家族とカナダに移住することになり、二人は離れ離れになってしまった。

 それから12年後。ニューヨークで脚本の勉強をしているノラは、インターネットのSNSに次々現れる懐かしい名前の中にヘソンの名前を見つけた。ヘソンも自分を探していたらしい。ネットを介した動画通話で、二人の12年の隔たりはあっと言う間に消えてしまう。

 「ニューヨークに会いに来てよ」「君がソウルに来ればいいじゃないか」。すぐ近くにいるようで、どうしても近づけない物理的距離のもどかしさ。その距離に疲れ果てたように、二人はまた連絡を絶つことになる。

 さらに12年後。結婚してニューヨークの小さなアパートで暮らしているノラのもとに、韓国からヘソンが会いに来るという連絡があった。

■感想・レビュー

 映画の冒頭に登場する主人公たちは12歳。物語はそこから12年飛んで、主人公たちは24歳。そこからさらに12年たって、主人公たちは36歳になる。まるで物差しで測ったような時間の均等分割は、この物語に不思議な奥行きと時間の広がりを生み出す。

 物語が始まる12年前、二人はほぼ同じ頃に生まれただろう。映画が終わってから12年後、48歳になった二人は何をしているだろう。そこで二人はまた会うだろうか。それから12年後、60歳になったらどうなるのか。12年という時間の物差しは、映画に描かれた時間を越えて、前と後ろに無限に広がる。

 今年のアカデミー賞では作品賞と脚本賞にノミネートされて注目された映画だが、その面白さは前記したような幾何学的構成にあると思う。登場人物が少なく台詞も多いため、舞台劇のような香りがする作品でもあるが、映画の最後に長回しの横移動撮影を持って来て、「これぞ映画!」という醍醐味を感じさせたりもする。僕はこういう「企み」のある映画が大好きなのだ。

 この映画はラブストーリーだが、ちょっと不思議なラブストーリーだ。主人公たちは30年ほど前に出会い、親しくなり、お互いを自分に取って唯一無二の、かけがえのない存在だと感じつつ、愛の告白をするでもなく、キスだのハグだの肉体的な接触をするでもなく、将来の約束をするでもなく、それまでと同じように1万キロの彼方へと離れ離れになる。

 要するに、主人公たちの間には、客観的には一切何の関係も関わりもないのだ。彼らは恋人同士ではない。過去にも、今にも、そして未来にも、恋人同士ではなかったし、今後も恋人同士になることはなさそうだ。それでも映画を観る人は、二人が「かけがえのない存在」「運命の二人」であることを感じるだろう。

 エピソードや台詞を積み重ねて、それを観客に信じさせてしまうのがこの映画の一番すごいところ。作り手の手練手管には脱帽してしまう。

(原題:Past Lives)

TOHOシネマズ日比谷(スクリーン11)にて 
配給:ハピネットファントム・スタジオ 
2023年|1時間46分|アメリカ、韓国|カラー 
公式HP:https://happinet-phantom.com/pastlives/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt13238346/

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