ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ

10月14日(金)公開予定 伏見ミリオン座ほかにてロードショー

天才作家 VS ベテラン編集者

ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ

 1929年。フィッツジェラルドやヘミングウェイを見出したベテラン編集者マックス・パーキンズは、同僚から分厚いタイプ原稿を押し付けられる。無名の作家の卵が書いた、知られざる超大作だ。だが律儀にその原稿を読み始めたバーキンズは、一晩かけてそれをすべて読み切ってしまった。翌日原稿の回収にやって来た作者のトマス・ウルフに、「この本はうちで出す。ただしこのままでは長すぎる」と告げるバーキンズ。ここからバーキンズとウルフによる、原稿の徹底的な見直しがはじまった。悪戦苦闘の末に完成した本はたちまちベストセラーになり、ウルフ本人も時の人となる。だがウルフの才能を信じて長年彼の生活を支えた年上の愛人アリーンは、ウルフの成功を素直には喜べない。成功と共に、彼が自分のもとを去って行くことを予感していたのだ。やがて2作目の執筆がはじまる。奔放に言葉があふれ出るウルフにとって、それは1作目以上の難産になった……。

 原作はA・スコット・バーグによる評伝「名編集者パーキンズ」から、パーキンズとウルフの関係に焦点をあてて映画化した作品だ。監督は本作がデビュー作となるマイケル・グランデージ。パーキンス役にコリン・ファース。ウルフにはジュード・ロウ。物語の舞台は1920年代から30年代にかけてのアメリカだが、これはイギリス映画であり、監督と主要なスタッフ・キャストはイギリスやオートスラリア出身の人たちが多い。この地理的な距離感が、いにしえのアメリカ文学界を描くのに程よい距離感となっている。同じ素材を現代のアメリカの俳優が演じたのでは、この時代の雰囲気は出なかったかもしれない。主演ふたりはもちろん素晴らしい演技を見せるが、アリーンを演じたニコール・キッドマンが絶品だ。自分の人生を若い愛人に捧げてその成功を援助したものの、いざ成功すれば今度は自分が棄てられるという恐れに取り憑かれる中年女の愚かしくも悲しい姿だ。

 フィッツジェラルドとヘミングウェイは今でも読まれている作家だが、トマス・ウルフはもはや忘れられてしまった作家だ。邦訳が何冊が出ていたが、とうの昔にすべて絶版になっている。おそらく日本以外の国でも、似たようなものに違いない。そのせいかこの映画では、ガイ・ピアース演じるスコット・フィッツジェラルドがウルフ以上の強烈な印象を残す。狂気の妻を抱えてまったく書けなくなり、生活のために借金を重ね、ハリウッドでも不遇を託ってアルコールに溺れるかつての人気作家。彼は売り出し中のウルフに対して、自分が忘れられた作家になったと自嘲気味に語ってみせる。だが映画を観る人は、やがてウルフが忘れられ、フィッツジェラルドの名声が絶えないことを知っている。ここに生まれる辛辣なアイロニー。フィッツジェラルドの晩年はそれだけでひとつのドラマだが、おそらくはこの映画の作り手たちも、そのドラマに魅了されてこの映画を作ったのだ。

(原題:Genius)

NAGOYA試写室にて
配給:ロングライド
2015年|1時間44分|イギリス|カラー|シスマスコープ|Dolby Digital
公式HP: http://best-seller.jp
IMDb: http://www.imdb.com/title/tt1703957/

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