長いお別れ

5月31日(金)公開 全国ロードショー

山崎努の熱演に目が釘付け

 父・昇平の70歳の誕生日を祝うため、久しぶりに実家に集まった家族4人。母の曜子は専業主婦で、長女・麻里は結婚して今はアメリカ暮らし。次女の芙美は惣菜店で働きながら、いつか自分のカフェを開くために準備をしている。だが姉妹はこの日、父の認知症が始まったことを母から知らされて驚く。長年教員を勤め、最後は校長をしていた厳格な父。本を読むのが好きで、今も読書を欠かさない父がボケているだなんて。にわかには信じられない話だったが、芙美はその日、父の言動が明らかにおかしいことに気がついた。それがはじまり。父の認知症は少しずつ、しかし確実に進行していった。はじめのうちは、調子の良い時と悪い時がある。だが少しずつ調子の悪い時が多くなり、自分の周囲のあらゆる物事を忘れていく。家族のことを忘れ、自分のいる場所がわからなくなり、やがて言葉も通じにくくなっていく。しかしそんな父を、家族は温かい目で見守り続けるのだ。

 認知症になり少しずつ衰えていく父親を、家族が看取るまでの7年間の物語だ。この間にさまざまな家族のエピソードが挿入されていくのだが、父親の死以上の大きなエピソードはない。しかしいろいろな意味で、身につまされる映画だった。少し残念なのは、認知症の父親・昇平を演じた山崎努が、最初からかなりの高齢者として描かれていた点ぐらいだろうか。物語は父親の70歳の誕生日から始まる。この時点では、昇平はまだピンピン元気で若々しいはずなのだ。山崎努の実年齢は80過ぎだが、70歳の時はまだ若かった。例えば武田鉄矢や風間杜夫、火野正平は今年70だ。確かに年は取っている。孫がいるような年齢だ。だが今の時代に、彼らを死にそうな老人扱いする人はいない。それが認知症によって、あっという間に老け込んでいく。元気でピンピンしていた人が、最後は自分で呼吸もできないような枯れ果てた老人に成り果てる。それが認知症という病気なのだ。

 とはいえこの映画の山崎努はかなりの熱演で、認知症の男をじつに楽しげに、面白そうに演じていて、観ていて気持ちが良かった。娘と縁側で話をする場面はじんわりと温かい気持ちにさせてくれるし、妻の手を握って大真面目な顔でプロポーズをする場面も胸を打つ。痛快なのはやはり友人の葬式に出かける場面で、自分が今どこで何をしているのかわからない不安でおどおどした顔が、友人の死をようやく理解した後は急に腑に落ちたような顔つきになるところなど、面白いやら悲しいやらで涙が出そうになる。映画は昇平の死に至る長い道のりを緻密に描写しながら、最後の旅立ちについては伏せて見せようとしない。物語のテーマはそこに至る「長いお別れ」にあって、旅立ちを描くと「別れ」がそこに集約し、完結してしまうからだろう。地味な映画だが出演している俳優は豪華。娘を演じた蒼井優や竹内結子も悪くないが、今回の映画は松原智恵子が素晴らしかったと思う。

TOHOシネマズ名古屋ベイシティ(スクリーン9)にて
配給:アスミック・エース
2019年|2時間7分|日本|カラー
公式HP: http://nagaiowakare.asmik-ace.co.jp/
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt9657904/

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