多十郎殉愛記

4月12日(金)公開 丸の内TOEIほか全国ロードショー

アクション時代劇としては熱量不足

 幕末の京都。倒幕か佐幕かで揺れ動く政治闘争のまっただ中にあって、貧乏浪人・清川多十郎の暮らす長屋にも不穏な空気が漂ってくる。じつは多十郎は長州藩の脱藩浪人。故郷の城下では名の知れた剣客だったが、勤王派の藩士たちと国を出たのは、父の代から積み重なった借金から逃れるためだった。他の脱藩浪士のように革命の熱い思いに浮かされることもなく、日々を無為に過ごしている多十郎。そんな彼を気にかけて何かと世話を焼くのは、居酒屋の女将おとよだ。多十郎は彼女の好意を知りつつ、あえてすげない態度を取ってみせる。何から何まで、中途半端な男なのだ。ある晩、おとよの店で乱暴に振る舞う岡っ引きを追い出したことで、多十郎は相手の恨みを買ってしまう。多十郎の素性はすぐに知れ、長州の脱藩浪士を取り締まっている京都見廻組に危険人物として届け出られた。見廻組は多十郎を捕縛するため、手練れの隊士数名が連れ立って長屋に向かうが……。

 1964年に『くノ一忍法』でデビューして以来、時代劇、任侠映画、実録やくざ映画、文芸映画まで、さまざまなジャンルの映画を撮り続けてきた中島貞夫監督。彼が『極道の妻たち 決着(けじめ)』(1998)以来、21年ぶりに撮った本当に久しぶりの監督作だ。主人公の多十郎を演じるのは高良健吾。ヒロインのおとよを多部未華子が演じている。脚本は中島貞夫監督と谷慶子の共作。監督補佐として、大阪芸大で中島監督の教え子だった熊切和嘉監督が名を連ねている。これはいろいろな人が力を合わせて、中島貞夫監督にもう一度劇場映画を撮らせようというプロジェクトなのだろう。映画の冒頭に「伊藤大輔監督の霊に捧ぐ」という字幕が出るが、これは本作が伊藤監督の時代劇『長恨』(1926)を下敷きにしているからだろう。『長恨』のあらすじと本作はまるで別の話なのだが、映画終盤の大チャンバラのくだりは、確かに『長恨』に似ているかもしれない。

 ただしこの映画、僕はだいぶ不満が残る。チャンバラ映画としては一対一の対決でも一対多の斬り合いでも、例えば『必死剣 鳥刺し』(2010)や実写版『るろうに剣心』シリーズ(2012〜2014)の方がドキドキしたし、捕り物シーンは奥田瑛二の『るにん』(2006)が面白かった。こうした過去作に比べると、本作のアクションシーンは迫力不足だ。ここにはエモーションが足りない。熱量不足なのだ。僕が時代劇に求めるのは、現代劇では表現できない過剰さだ。時代劇には時代劇だからこそ描ける世界があって、その世界の中でこそ描ける激しい葛藤がある。そこから生まれる感情のほとばしりがアクションと一体になると、チャンバラは猛烈な熱量を発して観客の気持ちまで燃え上がらせるのだ。本作にそうした熱量はあるだろうか。残念ながら、僕にはだいぶ生ぬるい。生ぬるい空気の中で行われる必死の逃走と追跡は、大掛かりなコントに見えなくもない。

ミッドランドスクエアシネマ2(シアター10)にて
配給:東映、よしもとクリエイティブ・エージェンシー
2019年|1時間33分|日本|カラー
公式HP: http://tajurou.official-movie.com/
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt9225086/

愛者~Kanasha~
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