ジョーカー

10月4日(金)公開 全国ロードショー

道化の仮面がひとりの男を救う

 アーサーは病気の母親の世話をしながら、いつかコメディアンになることを夢見ている。今は街頭宣伝のバイトをしているが、彼自身はこの仕事が嫌いではない。むしろ天職だとすら思っている。人を笑わせてハッピーにするのが、彼の生きがいなのだ。少なくとも、彼は自分でそう信じようとしている。そうとでも思わなければやりきれない現実が、彼の目の前にはあるからだ。街は犯罪に満ちあふれ、人々の心は荒んで、貧富の差は開く一方だ。アーサーのような底辺の人間には、上に這い上がるチャンスすらない。母は認知症を患い、アーサー自身は緊張すると笑いが止まらなくなる病気を抱えている。ある日、同僚から護身用にと銃を押し付けられたアーサーは、うっかりそれを仕事先の病院で落として仕事をクビになる。落ち込んだアーサーは地下鉄の中で笑いの発作を起こして3人組のエリート会社員たちに暴行され、とっさに持っていた銃で相手を射殺してしまうのだった。

 何度も映画化された人気コミック「バットマン」シリーズのヴィラン(悪役)であるジョーカーを主人公にした映画だが、これはジョーカー誕生にいたるプリクエル(前日譚)、エピソード0のような作品だ。この映画にはバットマンが登場しない。しかしバットマンにつながる人物は登場する。大富豪のトーマス・ウェインと、その息子ブルースだ。「バットマン」では少年ブルースの目の前で、両親が暴漢に射殺されるというのが物語の出発点になる。殺害犯はジョーカーだ。(そうでないバージョンもある。)映画『ジョーカー』は「バットマン」を知る人なら誰もが知るこの事件を、物語のラストに持ってくる。こうして映画は一応「バットマン」の中に組み込まれているのだが、この映画を観る人のほとんどは、おそらくこの映画が「バットマン」の世界観を共有していることにこだわらないだろう。いやむしろ、この映画ではそんな世界観などまったく無意味なものだと思う。

 人間は物事に意味を求める。自分の人生に意味を求める。自分はなぜ生きているのか、自分の喜び、悲しみ、苦しみに、どんな意味があるのかを考える。そうした「意味」のオブラートに包み込まれることで、人間は自分自身を守る。この「意味」に心から納得できれば、人間はどんな艱難辛苦にも耐えられるし、自らの命を投げ出しても悔いを感じないのだ。アーサーの人生は苦しくて辛いものだった。だが彼はその苦しさや辛さに、さまざまな意味付けをすることでかろうじて自分を守っている。唯一の肉親である母親への愛情と、心と体を病んでいる母を守る自分の肯定。人を笑わせるという仕事への誇り。一流のコメディアンになろうとしている自分の夢。しかしそうしたアーサーの人生への意味付けは、現実の前に少しずつ確実に剥ぎ取られていく。アーサーは暴力と嘲笑だけがはびこる世界に、ほとんど丸裸で投げ出されてしまう。そこでは道化の仮面だけが彼を守る武器だ。

(原題:Joker)

109シネマズ名古屋(シアター7)にて
配給:ワーナー・ブラザース映画
2019年|2時間2分|アメリカ|カラー|1.85 : 1
公式HP: http://wwws.warnerbros.co.jp/jokermovie/
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt7286456/

Joker (Original Motion Picture Soundtrack)
Watertower Music (2019-10-02)
売り上げランキング: 30

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