去年マリエンバートで

10月25日(金)公開 YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開

過去の迷宮に捕らえられた人々

 周囲から隔絶された広大なリゾートホテル。そこに集まるのは、夜会服で着飾った富裕層の人々。彼らは取り立てて何をするでもなく、演劇を観たり、ゲームをしたり、他愛のないおしゃべりをして時間を過ごしている。そのホテルを訪れた男Xは、美しい女Aと出会い恋をする。だが翌年同じホテルを訪れたXは、他人行儀な振る舞いを見せるAに戸惑うばかり。XはAに向かって、ふたりの間に何が起きたのかを語っていく。少しずつ、過去を思いだしていく女。だがその記憶は、男の記憶とどこかですれ違う。ふたりの間に、一体何が起きたというのか。ふたりの間に立ちふさがるのは、Aの夫であるM。彼は妻とXの関係を知ってか知らずか、ゲーム版の上の勝負でXをさんざんに打ち負かす。Xは何度もMに挑むがまるで歯が立たない。XはAをホテルの庭園に連れ出した。夜の庭園には、ふたりの他に誰もいない。恋人たちの回想は、いよいよこの問題の核心へと迫っていく。

 アラン・レネ監督が1961年に発表したミステリアスなラブストーリー。同年のヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞した古典だが、序盤から中盤にかけてのゆったりした語り口と、観る者を徹底的に煙に巻いていく難解さで、前半は観客の睡魔を誘い、終盤では観客の頭を抱えさせる。いやまて。この映画がわからないのは、前半でウトウトしてしまったせいなのだろうか? たぶんそれもある。しかしそれだけでもなさそうだ。そもそもこの映画は、話がわからないようにできている。主人公(語り手)であるXの記憶と、ヒロインAの記憶が一致しない。そこに第三者であるMの記憶も入り込んで、互いに相容れない記憶の風景が衝突し合っているのだ。記憶の中で、風景は抽象化される。主人公たち以外の人物たちは、書き割りの人物のように動きを止めて棒立ちになっている。それはこの映画が、記憶の中の風景を描いているからだ。しかもその記憶は時と共に変質する。

 この映画を観るのは初めてだったが、この映画の雰囲気は以前にも味わったことがある。それはキューブリックの映画『シャイニング』だ。『シャイニング』は山間部のリゾートホテルが舞台で、そのホテルには広大な庭園がある。そしてそのホテルには、過去の記憶の中に閉じ込められた人々が暮らしている。『シャイニング』は原作者のスティーブン・キングが「原作と全然違う!」とクレームを付けたことで有名だが、それでも映画としての格調の高さは折り紙付きだ。キューブリックはキングのホラー小説の筋立てを引用して、自分なりの『去年マリエンバートで』を作ったのだ。リメイクではなくオマージュだ。『シャイニング』が好きな人は、『去年マリエンバートで』も好きに違いない。僕はどちらも好きだ。そして『シャイニング』を先に観ていると、『去年マリエンバート』はホラー映画にしか見えない。ヒロインが両腕を広げ、満面の笑みで男を迎える場面は恐怖だ!

(原題:L’année dernière à Marienbad)

伏見ミリオン座(劇場4)にて 
配給:セテラ・インターナショナル  
1961年|1時間34分|フランス|カラー|2.35 : 1|モノラル  
公式HP: http://www.cetera.co.jp/marienbad4K/ 
IMDb: https://www.imdb.com/title/tt0054632/

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